テイルズ オブ エターニア リマスターのブースト機能は是か非か?賛否の理由と「論点のズレ」を整理する
2000年にPlayStationで発売された『テイルズ オブ エターニア』が、約25年の時を経て『テイルズ オブ エターニア リマスター』として2026年10月15日(Steam版は16日)に発売されます。
発売を前に各メディアの先行プレイレポートが公開されると、SNSでは新たに追加された「ゲームブースト機能」と「高速モード」をめぐって議論が起こりました。「便利になってうれしい」という声がある一方で、「RPGの楽しさが損なわれるのでは」と懸念する声も少なくありません。
この記事では、賛否それぞれの理由や議論がかみ合わない理由、ゲームにおける「ゲームブースト」の歴史をふり返りながら、この問題を俯瞰的に考えてみます。
そもそもゲームブースト機能とは?
公開されている情報によると、本作のゲームブースト機能では主に次のような設定を変更できます。
- 与ダメージの倍率(最大5倍)
- 獲得経験値・獲得ガルド・熟練度の倍率(最大4倍)
- 敵とのエンカウントのON/OFF
- デスペナルティなどのON/OFF
これに加えて、オート戦闘などを高速化する「高速モード」も搭載されています。ダメージ5倍と高速モードを組み合わせると、通常の戦闘が数秒で終わってしまうことが先行レポートで紹介され、これが議論の大きなきっかけになりました。
これらは任意に切り替えられる機能で、開発側は「オリジナルの体験」と「遊びやすさ」の両立を目指したと語っています。
賛否両論の理由
肯定派の主な意見
肯定派の意見は、おおむね次のようなものです。
- 使いたくなければ使わなければいい:あくまでオプションであり、強制ではない
- 時間のない大人でも遊べる:社会人になってまとまったプレイ時間を取れない人でも、物語を最後まで味わえる
- 周回・やり込みが快適になる:2周目以降やレベル上げ、熟練度稼ぎの「作業」の部分を短縮できる
- 物語を知ってほしい:新しい世代がバトルでつまずかずに、評価の高いストーリーに触れられる
否定派の主な意見
一方で、否定派からは次のような声が上がっています。
- 「あると使ってしまう」問題:使わなければいいのは理屈としては正しいけれど、目の前にあると使いたくなる。使わないという選択そのものが「我慢」になってしまう
- 育成の意味が薄れる:コツコツ育成して強くなるという体験の価値が、ボタン1つで手に入るものと並ぶことで下がって感じられる
- 作品本来の手ざわりが伝わらない:オリジナル版は、ザコ戦の緊張感や少しずつ強くなる実感も含めて設計されたもの。それを飛ばした体験が「エターニアを遊んだ」ことになるのか、という疑問
- オリジナル版の開発者への敬意:当時の開発者が時間をかけて調整した戦闘バランスや成長曲線を、公式がボタン1つで外せるようにすることへの違和感
類似の問題:『SEKIRO』のイージーモード論争
似た構図の議論として思い出されるのが、2019年に発売された『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』をめぐる「イージーモードを追加すべきか」という論争です。本作には難易度選択がありませんでした。
追加を求める側は「お金を払ったのに最後まで遊べない」「体に障がいのある人や、練習の時間を取れない人も物語を見届けたい」と主張しました。反対する側は「死にながら少しずつ上達していく過程こそが作品の体験そのもの」「難しさは開発者が意図して設計したもの」と主張しました。
「遊べる人を増やしたい」という声と、「作品の体験を守りたい」という声がぶつかる構図は、今回のゲームブースト機能の議論とよく似ています。間口の広さと、作品が意図した手ざわりをどう両立させるかという問いは共通しています。
肯定派・否定派の論点のズレ
ゲームブースト機能の議論を見ていくと、両者は必ずしも同じテーマについて話していないことがわかります。
肯定派は「個人の選択」について話している
肯定派の中心にあるのは「自分がどう遊ぶかは自分で決めたい」という、プレイヤー個人の自由の話です。機能はオプションなので、誰かの遊び方を奪うものではない、という考え方です。
否定派は「作品の設計」について話している
否定派の多くは、「自分が使いたくない」というよりも、作品がどう届くかを問題にしています。公式がメニューに並べた機能は「こう遊んでもいいですよ」というメッセージにもなる、という問題意識です。
すれ違いの構図
つまり、肯定派は「プレイヤーの自由」、否定派は「作品のあり方」を論じていることが多く、次のような構図になりがちです。
| 肯定派 | 否定派 | |
|---|---|---|
| 主な関心 | 自分の遊び方・時間 | 作品体験の伝わり方 |
| 「使わなければいい」への評価 | 十分な答え | 答えになっていない |
| 想定しているプレイヤー | 時間のない既プレイヤー・新規層 | 初めて作品に触れる人 |
否定派に「使わなければいい」と返しても、否定派が気にしているのは自分の遊び方ではないため、議論は平行線をたどります。
まず相手がどちらの話をしているのかを確認することが、建設的な議論の第一歩です。
「老害」などの人格攻撃・誹謗中傷について
今回の議論では、残念ながら意見への反論を超えて、相手の人格を攻撃する言葉も見られました。
否定的な意見に対して「老害」「懐古厨」とレッテルを貼る。逆に肯定的な意見に対して「ゆとり」「ヌルゲーマー」「そんなプレイでエターニアを語るな」と見下す。こうした言葉は、どちらの立場から出たものであっても、議論を前に進めることはありません。
年齢や世代でひとくくりにする言葉は、意見の中身ではなく「誰が言ったか」に焦点を移してしまいます。
さらに、開発スタッフ個人への誹謗中傷は、言うまでもなく許されません。機能に不満があるなら、公式のアンケートや問い合わせ窓口を通じて、冷静に意見を伝えるのが最も効果的です。
意見は批判しても、人は攻撃しない。 当たり前のことですが、好きな作品の話だからこそ、改めて意識したいところです。
ゲームブーストの歴史
「ゲームを楽に進める仕組み」は、今回初めて登場したものではありません。形を変えながら、ゲームの歴史とともに存在してきました。
裏技・改造の時代(1980〜90年代)
ファミコン版『グラディウス』(1986年)の、いわゆる「コナミコマンド」は、特定のボタン入力で自機がフルパワーアップする有名な裏技です。当時は、楽をする手段は知る人ぞ知る秘密という位置づけでした。1990年代には「プロアクションリプレイ」などの周辺機器による数値の書きかえも広まりましたが、これはメーカー非公認の手段でした。
クリア後のごほうび「強くてニューゲーム」
RPGでは、クリア後にレベルや装備を引き継いで最初から遊べる、いわゆる「強くてニューゲーム」がおなじみです(初登場はスクウェアのクロノトリガー)。テイルズ オブ シリーズでも、クリア時の成績に応じた「グレード」を使って、2周目以降に経験値の倍率アップなどを選べる「グレードショップ」が定番になっています。
一見するとゲームブースト機能と似ていますが、両者は趣旨がまったく異なります。強くてニューゲームは、あくまでゲームをクリアした人へのごほうびです。1周目は開発者が設計したバランスで遊び、物語を見届けたうえで、2周目以降をより自由に楽しむための仕組みであり、初見のゲーム体験には影響しません。むしろ、1周目の苦労があるからこそ「強くなった状態で遊ぶ」ことが楽しい、という意味で、本来の体験を前提にした仕組みだといえます。
一方、ゲームブースト機能は1周目の最初から使えます。否定派が問題にしているのは「楽をする仕組み」そのものではなく、それが初見の体験にまで入り込むことです。この違いを押さえておくと、議論の焦点がはっきりします。
有料DLCによる「時間の購入」
その後、家庭用ゲームでもダウンロードコンテンツが一般化すると、経験値やお金の獲得量を増やすアイテムが有料で配信されるケースも見られるようになりました。「お金で時間を買う」という考え方が、公式に登場したことになります。
リマスター・移植版の「ゲームブースター」(2010年代〜)
大きな転換点になったのが、2010年代半ばから『ファイナルファンタジーIX』などの移植版に搭載された「ゲームブースター」です。高速モードやエンカウントなし、バトルを有利にする設定を、1周目の最初から自由に切り替えられるようになりました。
この流れはその後も続き、2023年に発売されたPS4/Nintendo Switch版『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』では、獲得経験値やギルを0〜4倍に変えられる「ゲームブースト機能」やエンカウントのON/OFFが搭載され、のちにSteam版・スマートフォン版にもアップデートで追加されました。
テイルズ オブ シリーズでも、2025年発売の『テイルズ オブ グレイセス エフ リマスター』でエンカウントのOFFや、グレードショップによる経験値倍率アップなどが用意され、遊びやすさを重視する方向性が示されています。
アクセシビリティとしての「アシスト」
ブースト機能とは少し異なりますが、2018年の『Celeste』は、ゲームスピードの調整や無敵化ができる「アシストモード」を用意し、「誰もが最後まで遊べるように」という姿勢が高く評価されました。前述の『SEKIRO』の論争も、こうした流れの中で起きたものです。
こうしてふり返ると、今回の議論は「楽に進める手段は、誰が、どの位置に、どんな顔をして置くべきか」という、昔からあるテーマの最新の姿だといえます。かつて「秘密の裏技」や「クリア後のごほうび」だったものが「最初から並ぶ公式の選択肢」になった変化が、議論の背景にあると考えられます。
「オプションだから中立」とは言い切れない理由
人は、目につく場所に置かれた選択肢に影響を受けやすいものです。同じ機能でも、
- タイトル画面の最初の設定で案内されるのか
- メニューの奥にひっそり置かれているのか
- 「オリジナル版のバランスで遊ぶのがおすすめです」といった一言が添えられているのか
によって、選び方は大きく変わります。問題は機能が「ある」か「ない」かだけではなく、どのように提示されるかにもあるのです。たとえば「初回は機能をオフにした状態をおすすめとして案内する」「クリア後にさらに強力な倍率を解放する」といった工夫があれば、賛否両方の立場にある程度歩み寄れる余地があるかもしれません。
私の考え
最後に私自身の考えを述べておくと、私は今回のブースト機能については否定的な立場です。
理由のひとつは、オリジナル版の開発者の苦労を軽く扱うことになりかねない点です。25年前の開発者たちは、限られたハードの性能の中で、敵の強さや成長のペース、ザコ戦の手ざわりを細かく調整してきたはずです。ダメージ5倍・高速モードで戦闘が数秒で終わる体験は、その積み重ねを、公式みずから「飛ばしてよいもの」として示しているようにも見えてしまいます。
もうひとつは、作品本来の魅力が伝わらない可能性です。『エターニア』の物語は、キャラクターたちの成長を描いた作品です。プレイヤー自身が苦戦し、少しずつ強くなっていく体験は、その物語と重なり合うものだと私は考えています。初めて遊ぶ人ほどブースト機能を使いやすく、その重なりを知らないまま「こういう作品だった」と受け取ってしまうとしたら、それはとても惜しいことです。
もちろん、時間のない人にとってこの機能が助けになることも理解できます。だからこそ、機能をなくすことよりも、オリジナルの体験をまずおすすめする提示の仕方を大切にしてほしい、というのが私の願いです。
まとめ
- 『テイルズ オブ エターニア リマスター』のブースト機能は、ダメージ・経験値の倍率変更やエンカウントOFFなどを自由に選べる新機能
- 肯定派は「プレイヤー個人の自由」、否定派は「作品体験の伝わり方」を重視しており、論点がずれやすい
- 「老害」「ヌルゲーマー」といったレッテル貼りや人格攻撃は、どちらの立場であっても議論を前に進めない
- 『SEKIRO』のイージーモード論争も同じ構図の問題
- 「強くてニューゲーム」はクリア後のごほうびで、初見の体験に影響しない点でブーストとは別物
- 楽をする仕組みは、裏技→周辺機器→強くてニューゲーム→有料DLC→公式ブースターと形を変えてきた。今回はそれが「1周目から並ぶ公式の選択肢」になった
- 機能の有無だけでなく、「どう提示するか」にも議論の余地がある
ブースト機能に賛成の方も、反対の方も、根っこにあるのは『エターニア』という作品への愛情のはずです。発売後、実際に遊んだ人の感想が集まれば、議論はまた違った形で深まっていくはずです。












