【政治とゲーム業界の衝突】『ゴーストオブヨウテイ』開発者による不適切投稿騒動の全容と波紋:ソニーはなぜ解雇を決断したのか?
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開発者による不適切投稿が引き起こした国際的な騒動
2025年9月、PlayStation 5の期待作『Ghost of Yōtei(ゴーストオブヨウテイ)』の開発元であるSucker Punch Productions(サッカーパンチ・プロダクションズ)のシニア開発者が行ったSNSへの投稿が、ゲーム業界と政治界隈を巻き込む国際的な大騒動へと発展しました。
問題の投稿を行ったのは、Sucker Punchのシニア・キャラクターアーティストであるドリュー・ハリソン氏です。彼女は、同月に発生した保守派の著名な政治活動家チャーリー・カーク氏の射殺事件を受け、自身のSNSアカウント(主にBlueskyやX)に不適切な内容を投稿しました。
投稿内容は、カーク氏の死を嘲笑し、事件の犯人を肯定するかのような含みを持つものでした。特に議論を呼んだのは、「犯人の名前がマリオだといいな。そうすればルイージは兄が味方だとわかるからね」という趣旨の発言で、これは人の死、特に政治的な事件による死を冗談の種にしたものとして、SNS上で瞬く間に炎上し、大きな波紋を呼びました。
この騒動は、単なる個人間の意見対立に留まらず、ゲーム開発者が公的な場で政治的、あるいは暴力的な発言を行うことの是非、そして企業が従業員のSNS上の行動にどこまで責任を負うべきかという、業界全体に共通する課題を浮き彫りにしました。
騒動拡大の背景とハリソン氏の強気の姿勢
ハリソン氏の投稿がこれほどまでに大きな騒動となった背景には、アメリカ社会における極端な政治的分断と、ゲーム文化における「ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)」論争の加熱があります。
1. 政治的対立の激化
射殺されたチャーリー・カーク氏は、アメリカの保守派の間で大きな影響力を持つ人物でした。そのため、彼の死を嘲笑する発言は、保守層からの激しい怒りを買い、ハリソン氏の投稿は「政治的暴力の肯定」と見なされました。
SNS上では、ハリソン氏の投稿をソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)やSucker Punchに通報するよう呼びかける大規模なキャンペーンが展開され、彼女に対して辞職や解雇を求める声が殺到しました。
2. ハリソン氏の強硬な反応
批判に対し、ハリソン氏は自身の行動を正当化する姿勢を貫きました。彼女は、雇用主への通報が相次いでいることに対し、「誰かの雇用主にメールするより、議員にメールして銃規制を要求すべきでは」と反論。また、SNS名を**「死ぬまでナチを殴る」**といった反ファシズム的な主張を強調したものに変更し、自身の政治的立場と信念を守る姿勢を明確にしました。
さらに、「反ファシズムのために10年間勤めた夢の仕事を失うことになっても、私は100倍強くなってやり直す」という趣旨の投稿も行い、自身の行動を信念に基づいたものとして擁護しました。
3. ゲーム業界全体への波及
この騒動はハリソン氏個人の問題で終わらず、他のゲーム企業にも波及しました。SNSでは、同様にカーク氏の死を嘲笑する投稿を行った他のゲーム会社(スクウェア・エニックス、Games Workshop、Bethesda、Activision Blizzardなど)の従業員のリストが作成され、それらの企業にも解雇を求める圧力がかけられました。この一連の動きは、ゲーム業界の従業員の政治的言動が、作品や企業イメージに直接影響を与える時代になったことを示しています。
ソニー・Sucker Punchの対応と解雇の決断
騒動の拡大を受け、Sucker Punch Productionsおよび親会社であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は沈黙を破り、対応に踏み切りました。
ソニーによる解雇の確認
複数の報道によると、ドリュー・ハリソン氏は騒動発生からわずか数日後、Sucker Punchを解雇されたことが確認されました。SIEの関係者はメディアに対し、「アーティストとの雇用関係を解消した」ことを認めています。
Sucker Punchのスタジオヘッドであるブライアン・フレミング氏も、メディアの取材に対し、「事実は正確である」と解雇の事実を裏付けています。
解雇の背景と企業の判断
ソニーが解雇という厳しい判断を下した背景には、以下の要素が挙げられます。
- 暴力の肯定と受け取られかねない発言: 企業として、特定の政治的対立における暴力行為を肯定するかのような発言を容認することは、企業倫理、社会的な責任、そしてコンプライアンスの観点から非常に困難です。
- ブランドイメージへの深刻な影響: 『Ghost of Yōtei』は、ソニーが注力するPS5の最重要タイトルの一つです。発売を目前に控え、主要な開発者が関わる政治的・社会的な炎上は、作品の評判や売上、ひいてはPlayStationブランド全体に悪影響を及ぼすリスクがありました。
- 「ゼロ・トレランス(一切の容認をしない)」の姿勢: 今回の対応は、ソニーが従業員の公の場での言動、特に暴力的な内容を助長しかねないコンテンツに対して「ゼロ・トレランス」の姿勢を示すための、迅速かつ断固とした措置であったと解釈されます。
この解雇決定は、従業員の表現の自由と、企業の社会的な責任およびブランド防衛との間で、企業側が後者を選んだことを示しています。
『Ghost of Yōtei』と今後のゲーム業界への影響
ハリソン氏の解雇後も、一部のゲーマーは『Ghost of Yōtei』のボイコットを呼びかけるなど、騒動の余波は続いています。しかし、ゲーム自体の評価(Metascore 86点)は非常に高く、ボイコット運動が販売全体にどれほどの打撃を与えるかは未知数です。
この騒動は、ゲーム開発業界全体に対し、従業員の個人的なSNS利用と、それが企業や作品に与える影響について、明確なガイドラインと教育の必要性を突きつけました。ゲーム開発者が自身の政治的信条を表明することと、それが他者の死を嘲笑するような、倫理的に問題のある形で行われた場合の線引きは、今後も議論の的となるでしょう。
参考文献
- 『ゴースト・オブ・ヨウテイ』開発者、政治活動家の死を嘲笑し波紋。自身の行動を正当化する面も | Game*Spark – 国内・海外ゲーム情報サイト –
- Sony fires Ghost of Yotei artist, allegedly over Charlie Kirk joke | GamesIndustry.biz –
- Sucker Punch Developer Reportedly Fired After Making Comments On Charlie Kirk’s Death
- Reprisals against commentators on the Charlie Kirk assassination – Wikipedia

